奈良地方裁判所 平成2年(ワ)445号 判決 1994年6月29日
奈良市南京終町四丁目二四七番地
原告
草竹杉晃
奈良市南京終町四丁目二四七番地
原告
草竹コンクリート工業株式会社
右代表者代表取締役
草竹杉晃
右両名訴訟代理人弁護士
阪口徳雄
同
谷口達吉
右輔佐人
藤本昇
奈良県宇陀郡榛原町大字比布一三一二番地の一
被告
植平コンクリート工業株式会社
右代表者代表取締役
植平善一
右訴訟代理人弁護士
松岡康毅
右輔佐人
小谷悦司
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの連帯負担とする。
事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
(原告ら)
一 被告は、別紙被告意匠目録記載の護岸用ブロックを製造し、販売してはならない。
二 被告は、その本店・営業所及び工場に存する前項の物件並びにその半製品を廃棄し、同物件の製造に必要な金型を除却せよ。
三 被告は原告草竹コンクリート工業株式会社に対し、金六六六万九七一二円及びこれに対する平成二年九月二九日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告は原告らに対し、日本経済新聞、日刊工業新聞の各地方版(奈良を中心とする)に各一回ずつ、標題を「謝罪広告」としてゴシック体二倍活字を、その他はゴシック体一倍活字を各使用して、左記の内容の謝罪広告をせよ。
記
「弊社が草竹杉晃殿の有する又、草竹コンクリート工業株式会社が独占的通常実施権を有する意匠登録番号六一〇一九七号護岸用ブロックと類似する護岸用ブロックの製造販売をして、その意匠権を侵害し、これがために右両者に対し、多大の迷惑をおかけしたことにつき深くおわび致しますとともに、今後絶対このようなことのなきことを固く誓約致します。」
五 仮執行の宣言
(被告)
主文同旨
第二 事案の概要
本件は、護岸用ブロックの意匠権者及びその独占的通常実施権者である原告らが、その意匠権の侵害の差止めないし侵害予防並びに損害賠償等を求めた事案である。
一 争いのない事実等
1 原告草竹杉晃は、左記登録意匠(以下「本件意匠」という)の意匠権者であり、原告草竹コンクリート工業株式会社(以下「原告会社」という)は、その独占的通常実施権者である。
記
<1> 出願日 昭和五六年四月一一日
<2> 登録日 昭和五八年七月二〇日
<3> 登録番号 第六一〇一九七号
<4> 意匠に係わる物品 護岸用ブロック
<5> 登録意匠の範囲 別紙意匠公報表示のとおり
2 被告は、遅くとも昭和六一年中ころから別紙被告意匠目録記載の意匠(以下「被告意匠」という)の護岸用ブロック(以下「被告製品」という)を製造し、販売している。
3 本件意匠の構成態様を、文章で表現すると、概ね次のとおりである(甲一の2)。
<1> 基本的構成態様
ア 平面視多角形状の柱状盤体からなる基台と、
イ 基台上部に凸設した多角柱状形状の起立台と、
ウ 起立台上部に凸設した多角錐台形状の突出ブロックと、
エ 基台より放射状に突出した結線用鉄線とからなる。
<2> 具体的構成態様
ア 基台は、
a 盤体を平面視仮想正方形状とする。
b この仮想正方形状の一辺の長さと高さの比を略一〇対一・三とする。
c この仮想正方形状の四隅部を一辺の五分の一程度隅切り状に切除し、平面視八角形状とする。
d 盤体の上辺縁と起立台の下辺縁との間の表面(基台の上面となる)を、外方に向かってわずかに傾斜する傾斜面とする。
e 盤体の下辺縁間の表面(基台の底面)を平坦面(水平面)とする。
イ 起立台は、
a 平面視正方形状とする。
b この正方形状の一辺の長さを前記仮想正方形状の一辺の長さの略五分の四とし、高さ(厚さ)を基台の高さと同大とする。
c この正方形状の四隅をわずかに隅切り状に切除し、基台の隅切り辺の中心に位置させた配置とする。
d この起立台の各周側面をわずかに外上方に傾斜し、該各周側面中央にわずかな深さの手掛部を凹設する。この手掛部は、起立台の一辺の長さの略三分の一の長さと、起立台の高さの略半分の幅の長方形状とする。
e この起立台の上辺縁(稜線部)をわずかに切除し、テーパー状とする。
f この起立台の上辺縁と突出ブロックの下辺縁との間の表面(起立台の上面となる)を平坦面(水平面)とする。
ウ 突出ブロックは、
a 正四角錐台形状とする。
b この正四角錐台形状の基部の一辺(底面の一辺)の長さを起立台の一辺の長さの略一〇分の七とし、天井部の一辺(上面の一辺)の長さを起立台の一辺の長さの略五分の二とし、高さを基台(起立台も同)の高さの略九分の四とする。
c この正四角錐台形状の基部の各四隅を起立台の各四隅と対応させ、基台、起立台、突出ブロックの三者を同芯状の配置とする。
d この正四角錐台形状の各錐面間の稜線部と天井部(上面)四隅部を丸くした角部とする。
e この正四角錐台形状の天井部(上面)を平坦面(水平面)とする。
エ 結線用鉄線は、
a 四方に各一本ずつ突出し、その長さは基台の隅切り辺の長さと略同じとする。
b 基台の隅切り辺の中央で上面側(起立台側)に位置させた配置とする。
4 被告意匠の構成態様を、文章で表現すると、概ね次のとおりである(検甲二、検乙一)。なお、本件意匠と異なる点を傍線部分で示す。
<1> 基本的構成態様
ア 平面視多角形状の柱状盤体からなる基台と、
イ 基台上部に凸設した多角柱状形状の起立台と、
ウ 起立台上部に凸設した多角錐台形状の突出ブロックと、
エ 基台より放射状に突出した結線用鉄線とからなる。
<2> 具体的構成態様
ア 基台は、
a 盤体を平面視仮想正方形状とする。
b この仮想正方形状の一辺の長きと高さの比を略一〇対一・二とする。
c この仮想正方形状の四隅部を一辺の五分の一程度隅切り状に切除し、平面視八角形状とする。
d 盤体の上辺縁と起立台の下辺縁との間の表面(基台の上面となる)を、外方に向かってわずかに傾斜する傾斜面とする。
e 盤体の下辺縁間の表面(基台の底面)を平坦面(水平面)とする。
f 盤体の下辺緑側周側面の略三分の一をテーパー台形状に切除し、段形状とする。
イ 起立台は、
a 平面視正方形状とする。
b この正方形状の一辺の長さを前記仮想正方形状の一辺の長さの略五分の四とし、高さ(厚さ)を基台の高さと同大とする。
c この正方形状の四隅を基台の隅切り辺の中心にわずかの余地部を残して位置させた配置とする。
d この起立台の各周側面の下方略半分を円弧状に切除し、凹曲面とする。
e この起立台の上辺縁(稜線部)をわずかに切除し、テーパー状とする。
f この起立台の上辺縁と突出ブロックの下辺縁との間の表面(起立台の上面となる)を平坦面(水平面)とする。
ウ 突出ブロックは、
a 仮想正四角錐台形状とする。
b この仮想正四角錐台形状の基部の一辺(底面の一辺)の長さを起立台の一辺の長さの略五分の四とし、天井部の一辺(上面の一辺)の長さを起立台の一辺の長さの略三分の二とし、高さを基台(起立台も同)の高さの略半分とする。
c この仮想正四角錐台形状の基部の各四隅を起立台の各四隅と対応させ、基台、起立台、突出ブロックの三者を同芯状の配置とする。
d この仮想正四角錐台形状の各錐面間の稜線部を天井部(上面)四隅部とともに切除し、平面視三角形状のカット面とする(天井部(上面)の形状は、その四隅部が切除された結果、平面視八角形状となる)。
この平面視三角形状は、天井部(上面)四隅部を底辺としてその長さを天井部の一辺の長きの略五分の一とし、基部の四隅を頂点とする。
この平面視三角形状のカット面は、各辺を稜線としたブラット面とする。
e この仮想正四角錐台形状の天井部(上面)を平坦面(水平面)とする。
エ 結線用鉄線は、
a 四方に各一本ずつ突出し、その長さは基台の隅切り辺の長さの略一・五倍とする。
b 基台の隅切り辺の中央で底面側に位置させた配置とする。
5 右3、4のとおり、本件意匠と被告意匠とは、基本的構成態様が同一であり、具体的構成態様のうち、4<2>ウdが主として異なるものである。
二 争点
本件の主な争点は、A本件意匠と被告意匠とが類似しているか否かの点と、類似しているとして、B原告会社の損害が幾らであるかの点にある。
〔A本件意匠と被告意匠との類否について〕
(原告ら)
1 本件意匠の要部は、その基本的構成態様及びその配置、大きさ、形状等の全体のプロポーション並びにその突出ブロックが「平面視基部外形が多角形で、かつ、天井部外形も多角形で、正面視角錐台の形状」を有する点にある。
2 本件意匠と被告意匠との主な相違点は、突出ブロックの形状において、本件意匠では、平面視基部外形と天井部外形とも正四角形状の角錐台形状になっているのに対し、被告意匠では、平面視基部外形が正四角形状、天井部外形は正八角形の角錐台形状で、かつ、突出ブロックの四隅に平面視三角形状のカット面が存在することである。
3 本件意匠にあっては、全体のプロポーションが先行する意匠にはない独自の特徴を形成するものであり、被告意匠もその基本的構成態様を本件意匠と同じくする一方、被告意匠のカット面は従来から公知の形態で格別看者の注意を喚起する要素ではない。
また、護岸用ブロックの場合、金属製品等とは異なり、カット面の三角の稜線は図面で表示きれるほど明確には具現できず、看者にとってこれは特別な注意を喚起するものとはならない。
4 特許庁は、突出ブロックの形状が被告意匠と同一である意匠を本件意匠の類似意匠として登録しており、被告意匠が本件意匠に類似することはこの点からも明らかである。
(被告)
1 本件意匠のうち、その基本的構成態様及びその配置、大きさ、形状等の全体のプロポーションは、その出願前から公知であって、これを本件意匠の要部とすることはできない。また、本件意匠における突出ブロックの形状は要部であるとしても、それは「平面視基部外形が多角形で、かつ、天井部外形も多角形で、基部と天井部を結ぶ四隅には大きなアール(丸み)が付され、正面視角錐台の形状」を有する点にある。
2 本件意匠では、右1のことからして、突出ブロックの平面視において中央部の正方形状の周囲にロ字状の面が見えるに過ぎない。これに対し、被告意匠では、突出ブロックの平面視において中央部に一つの八角形状、その周囲に四つの台形状、四隅に四つの三角形状の合計九つの面がカットされた宝石のように看者の注意を喚起するものである。このように、突出ブロックにおける側稜線部分が単なるアールか、フラットな三角形状面かで、看者に与える印象は顕著に相違する。
3 本件意匠と被告意匠との相違点としては、ほかにも、争いのない事実等4<2>アfを挙げることができる。
4 本件意匠の類似意匠として登録された原告ら指摘の意匠は、突出ブロックの側稜線部分にフラットな三角形状を有するものではない。
〔B原告会社の損害について〕
(原告会社)
1 被告は、遅くとも昭和六一年中ころから現在まで四万〇三九一個の被告製品を製造し、一個六六〇円で販売し、その純利益は一個当たり一二〇円(利益率約一八・八パーセント)であるから、その総利益は四五八万〇三三九円を下らない。
2 原告会社は、本訴追行のための弁護士費用と弁理士費用として二〇〇万円の損害を被った。
(被告)
原告会社の主張は争う。
第三 証拠関係
記録中の証拠目録のとおりである。
第四 争点についての判断
一 本件意匠と被告意匠との類否について検討する。
1 弁論の全趣旨と括弧内の各証拠によれば、次の事実が認められる。
<1> 本件意匠に係わる物品及び被告製品とも、護岸用ブロックであって、同一物品である。その大きさは、幅が概ね五〇センチメートル、高さが概ね一五センチメートルであり、重さは約六〇キログラムで手に持って容易に動かすことはできない。結線用鉄線の長さは、本件意匠に係わる物品では約一三センチメートル、被告製品では約一三ないし一六センチメートルである。(甲四、検甲一、二)
<2> 護岸用ブロックは、土木工事用の部材で、河川等の護岸に用いられ、河川等の岸辺で堤防となる地表面を覆うように整列状態に多数個のブロックを敷設・固定して施工・使用されるものである。施工後は、基台部分がコンクリートで堤防地面に被覆・固定され、起立台の上面と突出ブロックの表面のみが露出する。(甲四、二六、検甲四の3)したがって、これを設置・固定するためには、基台と起立台は必須の構成要素であり、また、起立台に凹凸を設けることも、護岸のために必須である。これらの構成要素は、護岸機能の点からしても簡単なものであるが不可欠なものといえる。
<3> 護岸用ブロックは、型枠に流動性コンクリートを流し込んで(通常は加圧注入)成形される。したがって、この型枠の形状・構造に応じてその製品の形状が定まるものである。そして、前記の物品の大きさに照らし、型枠により、ブロックの稜線部分を明瞭な線として表示することは可能である(検乙一、これに反する甲一六中の記載内容は採用しない)。
<4> 前認定のように、物品が土木工事用の部材で、河川等の護岸に用いられることからして、看者は、一般の消費者ではなく、工事関係者であり、具体的には、施主を国ないし地方公共団体等とする当該工事の担当者及び設計業者、土木建築業者等の技術的・専門的知識を有する専門家(当業者)である。すなわち、これらの専門家が物品の購入者、取引対象者となって護岸用ブロックを観察することになる。看者は、物品の機能的構成態様につき十分な知識を有するので、右以外の構成要素や具体的構成態様に注目することになると考えられる。
また、護岸用ブロックの形状、構造、使用形態からすると、看者は、通常これを地表面等に設置された状態で、平面視ないし俯瞰により観察するものと考えられる。<2>で述べたように、河川等の堤防の表面に整列配置された護岸用ブロックは、起立台の上面より上方の部分のみが露出するから、底面及び側面に表れる形状には格別の特徴がなく、これらに看者の注意を引く部分があるとは考えにくい。(甲四、乙六、一〇、検乙二、三)
<5> ところで、本件意匠の基本的構成態様は、既に述べたとおり被告意匠と同一である。このような基本的構成態様はこの種物品の意匠としては公知のものであったと認められる。(甲四、二六、乙四、八、九)
2 ところで、意匠の構成のうちある部分が公知である場合に、その部分を共通にする意匠をすべてその類似意匠とすることができないことは明らかである。一方、意匠の構成のうちある部分が公知であることを、他の構成要素とともにその類否判断の基準とすることは当然に許されるものであるが、護岸用ブロックにおいては、その性質上、その基本的構成態様は簡単かつ必須のものがほとんどであるから、その意匠の類否判断の核心は、具体的形状の異同に求めるほかはない。
以上のことからすると、護岸用ブロックの意匠の要部は、設計・施工に携わる者の目につきやすく、意匠全体の支配的部分を占め、意匠的まとまりを形成している突出ブロック部分、すなわち起立台の上面である突出ブロック部分を上方あるいは斜め上方から立体的に見た(俯瞰した)外観全体にあると認めるのが相当である。
そして、右外観全体の印象は、起立台の上面から突出ブロックの基部、錐面を通り天井部に至る面、すなわち突出ブロックの錐面を含む四隅部分と天井部の構成態様に左右されるものと考えられるので、これを意匠の要部とすべきである。
3 本件意匠と被告意匠との類否を検討する上において、争いのない事実等5に記載したもの以外の相違点は、いずれも数値上の微差に過ぎなかったり、看者の注意を引くものではないから、意匠の要部に関する相違点とすることはできない。なお、被告主張の争いのない事実等4<2>アfは、基台底面に係わるもので看者の注意を引くものではないから、意匠の要部に関する相違点ではない。
しかし、争いのない事実等5に記載した相違点、すなわち、具体的構成態様のうち、争いのない事実等4<2>ウdについては、以下に述べる理由により、被告意匠は本件意匠と別異の美観をもたらすものと認められる。
<1> 本件意匠は、その出願前公知の意匠に見られる基台、起立台及び突出ブロックあるいは結線用鉄線を基本的形熊とする護岸用ブロックの一変形であり、高度の創作性を有するものとしてその類似範囲を格別広いものとすることはできないところ、本件意匠の突出ブロックは、従来から公知の形状であると認められるから、その基本的形態に意匠の特徴があるとは認めにくい。
<2> 本件意匠において、各錐面間の四隅部分には稜線の記載はなく、原告の本件意匠に係わる製品のカタログ(甲四)においてもこの点は同様である。一般的な図面の記載方法では、稜線を記載することは、これにより二面間を角度をもって立体的に明瞭に区画するためであるから、原告に各錐面間を稜線によって区画する意図があったとは考えられない。
<3> 被告意匠においては、その突出ブロックの四隅部分に稜線の記載があり、その突出ブロックは、基部と天井部を結ぶ四隅に斜めにカットされた明瞭な(二等辺)三角形状のカット面が形成されている結果、平面視ないし俯瞰において、中央部に一つの八角形状、その周囲に四つの台形状、四隅に四つの三角形状の各フラットな合計九つの面がきれいにカットされた格別の形状となって表れている(検甲二、検乙一、三)。
<4> この相違点は、形状の相違として看取され、看者の注意を引くものである。すなわち、護岸用ブロックは、極めて簡単な構造を有しており、その性質や使用形態に照らすと、意匠的工夫を凝らすにしても一定の限度があって、各意匠がある程度の共通性を持つことは避けられない。このような意匠の類否を判断するにあたっては、部分的個別的に検討することなく、全体的に見て、看者の注意を引き易い部分につき、対比意匠に見られない相当程度際立った美的差異感を生ずる場合には、これを非類似とするべきである。被告意匠と本件意匠の要部における前記の差異は、直ちに看者の目を引きつける部分の顕著な相違点であって、全体的に観察しても、両意匠に別異の美観をもたらしている。
4 原告は、ダイヤカット形状が従来公知の形態で、格別看者の注意を喚起する要素とはならないと主張する。しかし、公知の形態が含まれているからといって直ちにその形状が看者の注意を引かないとはいえないし、被告意匠のカット面は、単なる公知意匠のそれ(甲二三ないし二五参照)とは異なって、正四角錐台形状における各錐面間の四つの稜線部分のカットにより二等辺三角形状を呈すること、平面視において九〇度回転しても変化がないことから、看者の注意を引くものである。
5 また、原告は、特許庁が突出ブロックの形状を被告意匠と同じくする意匠を本件意匠の類似意匠として登録しているので、被告意匠は本件意匠の類似範囲内にあると主張する。しかし、意匠の類否の判断は、本件意匠と被告意匠とを対比するものであって、本件意匠の類似意匠と被告意匠とを直接対比するものではなく、特許庁の登録は当裁判所の判断を左右するものではない。
もっとも、類似意匠もこれが登録されると、その意匠権が本意匠権と合体するものではあるが(意匠法二二条)、類似意匠制度は、登録意匠の範囲を明確にするためのものであると解されるから、その限りで本件登録意匠の類似意匠について検討を加えることとする。
なるほど、原告草竹杉晃が昭和六一年二月二四日に出願し、平成五年六月四日に本件意匠の類似意匠として登録された意匠(甲三〇)は、被告意匠と異なる点が余り見受けられない(なお、被告は、昭和六〇年六月から被告製品を製造・販売しているので(被告代表者の供述)、原告草竹杉晃の右類似意匠の出願はその後のことになる)。
しかし、本件意匠の類似意匠(甲三〇)の突出ブロックは、その基部と天井部がいずれも八角形状であって、被告意匠の突出ブロックの基部が正方形状であるのと相違し、その結果、カット面の具体的構成態様において台形状であるか二等辺三角形状であるかの相違を生じており、この点は要部となるものであるから、これらを形状の微差と評価することはできない。
6 結局、本件意匠と被告意匠とは、その要部において相違し、この相違点は直ちに看者の目を引きつける部分の顕著な相違点であって、全体的に観察しても両意匠に別異の美感をもたらしているものというべきである。被告意匠は本件意匠と類似しているものとはいえない。
二 以上のとおり、その余の争点につき判断するまでもなく、被告意匠が本件意匠と類似していることを前提とする原告らの請求は理由がない。
第五 結論
よって、原告らの請求をいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 前川鉄郎 裁判官 井上哲男 裁判官 近田正晴)
日本国特許庁
昭和58年(1983)10月11日発行 意匠公報(S)
L2-2243 A
610197 意願 昭56-15553 出願昭56(1981)4月11日
登録 昭58(1983)7月20日
創作者 草竹杉晃 奈良市南京終町4丁目247番地
意匠権者 草竹杉晃 奈良市南京終町4丁目247番地
意匠に係る物品 護岸用ブロツク
説明 背面図、左右側面図は正面図と同一にあらわれる.
<省略>
被告意匠目録
被告意匠は、別紙被告意匠説明図記載のとおり、左記構成からなるものである。
<1> 平面視略八角形状の盤体でかつ該盤体の内側底面がやや突出してなる基台aと、
<2> 該基台aの内側からその周面の弧状凹面hを介して起立しかつ上端周縁をテーパー面bとしてなる起立台cと、
<3> 前記基台aと起立台cとによってブロックボディdが構成されてなり、
<4> 該ブロックボディdの基台aの四隅から結束用鉄線eが放射状に突出してなり、
<5> しかも、前記ブロックボディdの起立台cの上面の内側には、平面視基部外形が正四角形で、天井部外形が八角形であり、正面視角錐台形状で、かつ基部の四隅と天井部の八角形の各稜線間に平面視略三角形状のカット面nでそれぞれ形成されてなる突出ブロックfが突設されてなる、
<6> 前記<1>ないし<5>の構成要素からなる凸型張ブロックである。
被告意匠説明図
背面図左右側面図は正面図と同一にあらわれる。
<省略>
意匠公報
<省略>